先日(OLブログVol.4で)、フルオーダーメイドの靴のデザインについて考え抜いた結果、“黒の5cmヒール” に着地し、その瞬間から「どうしてこんなに無難なんだよ……」と頭を抱えてしまった恵比寿OLのシュー子です。
“無難にしてしまう理由” を考えて、脳裏に浮かんできたのは “たいへん冒険した” 2足のブーツでした。それはスエードの8cmヒールで、色は【真っ赤】と【水色】。実はこれ、わたしが20歳くらいの頃に履いていたお気に入りでした。一目惚れして、2色買いしたときのことを鮮明に覚えています。
かかとが太めだったので8cmヒールのわりに安定していて、学校に行って授業を受けるとか、事務のアルバイトをするとか、座る時間が長い日は履くことができました。でもある日、美術館に行って自分好みの作品の前で度々立ち止まりながら鑑賞していると、足、腰、しまいには頭まで痛くなってしまったのです。
ずーっと楽しみにしていた企画展を、靴が原因で堪能できずに帰るときのむなしさ、くやしさ、やるせなさ。それを体験してからは、見た目より歩きやすさに重きを置くようになり、ぺったんこの靴ばかり履くようになったのでした。そして自然と、服もそれに合うカジュアルなものになっていきました。
そして、あれからおよそ15年が経ち、TKさんの紹介でダイナスさんにフルオーダーメイドの靴を作っていただくことになったというのに……わたしは “靴に対する自分の思考パターン” から抜け出せずにいました。“ヒールは長時間履くと、足腰そして頭まで痛くなるモノ” で、“歩きやすいヒールなんて幻”、と思っていました。
しかし先週のこと。
ダイナスさんの靴工房に伺って「黒の5cmヒールに決めました!」と伝えると、シューフィッターさんから「本当にそれは第一希望ですか?」と聞かれて、ドキリとしました。そして「ここは本当に最終の駆け込み部屋ですから、遠慮せず、第一希望を言ってください」と言われると、ハッとしました。
わたしの心の奥底には、もはや靴に対して “第一希望” などという発想はなくて、もうほとんど無意識のうちに “無難な色” を選び、“痛くならない高さ” の限界を決めていたのです!!
「なんでも聞くのがフルオーダーなので、一生懸命やります。この工房では『大変』って言わないんですよ。『大変』というのはお客さまのニーズですから」
と、さらりと言って穏やかな笑みを浮かべるその人は、1965年に発足したシューフィッター養成認定機関(http://fha.gr.jp/about)の会長さんということで、わたしはビジネスウーマン? の端くれとして、“本物ってすごいな……” と、靴のことはどこへやら、プロ中のプロによる仕事に対する姿勢に感動してしまったのでした。「安心感」とか「高品質」とか言葉で書くのは簡単だけど、言葉の厚みが違うというか、心の深いところに響いてきて、浄化されていくような心地になりました。
それから工房に並ぶ靴の中から5cmヒールと7cmヒールのパンプスを取り、鏡の前で履き比べてみると、7cmヒールのほうが断然、姿勢がよく見えて、わたしは「こっちがいいです」と言いました。また、羊や牛や馬といった、いろんな革の素材が集まる色見本帳の中から本当に好きな色(ネイビーブルー)を選ぶと、ドキドキしてきました。
まだできていない靴の完成をイメージしながら、“立派な靴が似合うようになろう。仕事もプライベートもいろいろがんばろう” などと思えたのは、フルオーダーメイド靴の魔法かもしれない。
to be continue.